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高知地方裁判所 昭和34年(ワ)399号 判決

原告 国

訴訟代理人 大坪憲三 外二名

被告 仁井田秋穂

主文

被告は原告に対し、別紙目録記載の不動産に対する高知地方法務局昭和三十四年二月十六日受付第二六四七号による債権額金五十万円の抵当権移転附記登記の抹消登記手続をなせ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は、訴外豊崎和夫に対し昭和三十四年七月三十一日現在において昭和三十三年度申告所得税本税金二十四万八千七百十円無申告加算税額金六万二千七百五十円同利子税額金十二万三千四十円同延滞加算税額金一万五百円合計金四十四万五千円の租税債権を有している。

二、ところが右豊崎は訴外木原重に対して昭和三十二年十二月二十七日付金銭消費貸借契約により貸付金五十万円の債権を有し、これを担保するため、同人所有にかかる別紙目録記載の家屋に対し、高知地方法務局昭和三十三年一月六日受付第二一号をもつてこれが抵当権設定登記をしていた。

三、そこで原告は、昭和三十四年六月十九日、第一項の滞納税金取立のため国税徴収法第十条同第二十三条の一の規定に基き、滞納者豊崎の有する第二項の債権を差押え同月二十六日滞納者に対しては差押調書を交付し、第三債務者木原に対してはこれが通知をなし、右債権の代位取立権を取得した。

四、よつて原告は、高知地方法務局へ前記抵当権登記に対し債権差押の登記を嘱託しようとしたが、右債権はこれよりさき昭和三十四年二月十六日に右滞納者豊崎より被告に譲渡され、請求の趣旨に記載の受付番号をもつて抵当権移転の附記登記が行われており、ために右登記が抹消せられない以上原告の差押登記は嘱託できない状態にある。

五、しかし、右豊崎と被告間の債権譲渡については、譲渡人豊崎から債務者木原に対し民法第四六七条所定の債権譲渡通知をしておらず、又同人の承諾を得た事実もないので、被告は右債権の譲受を本件債権の差押債権者である原告に対抗することはできず従つて、これにもとづく抵当権移転の附記登記をも原告に対抗できないものである。

六、よつて原告は、被告に対し本件抵当権移転登記の抹消を求めたがこれに応じないので本訴請求に及んだ次第である。

と述べた。

立証〈省略〉

被告は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、請求原因第一乃至四項記載の各事実はこれを認めるが、同第五項記載の事実は争う。と述べ、その主張として、

一、民法第四百六十七条は一般取引の安全を期するための規定であるから国税滞納処分による差押の場合には適用されない。

二、仮りに右の主張が容れられないとしても、本件債権の譲渡人豊崎和夫が債務者木原重に内容証明郵便で債権譲渡の通知をなしたのは昭和三十四年七月二十四日であるが、原告が右債権を差押える以前である同年二月十六日既に抵当権譲渡の附記登記がなされて居り、又その頃前記債務者も被告に対する債権の譲渡を承諾していたのであるから右債権の譲受けは原告に対抗できる。

と述べた。

立証〈省略〉

理由

原告が訴外豊崎和夫に対して有する請求原因第一項記載のような租税債権取立のため、国税徴収法第十条、第二十三条の一に基き、昭和三十四年六月十九日右訴外人が木原重に対して有する請求原因第二項記載のような抵当権付債権を差押え、同月二十六日滞納者である豊崎に差押調書を交付すると共に第三債務者木原に対しても右差押の通知をなして同債権の代位取立権を取得したことは当事者間に争いがない。然るに右差押債権は原告の前記差押に先き立つ昭和三十四年二月十六日既に豊崎から被告に譲渡され、同日主文第一項掲記の受付番号をもつて抵当権移転の付記登記がなされていることも又当事者間に争いがない。

ところで国税滞納処分に於ては、国は執行機関として権力的行為により差押公売を実施するものではあるけれども、他面租税債権者としての地位にもあり、この地位は一般私法上の差押債権者の地位と本質的に何等異るものではないから国税滞納処分による差押についても民法第四百六十七条の適用はあるものと解すべく、而して指名債権の譲渡は譲渡人がこれを確定日附ある証書で債務者に通知するか、又は債務者がこれを確定日附ある証書で承諾しなければ債務者以外の第三者に対抗することはできないのであるから、(確定日附ある証書によらない単なる通知、承諾のみでは、債務者には対抗し得ても、第三者には対抗できない。)本件のような被担保債権の譲渡に随伴して抵当権が移転した場合は主たる被担保債権の譲渡についてかような対抗要件を欠缺する限り、その結果として、たとえ従たる抵当権につきその対抗要件たる移転の附記登記がなされていたとしてもこれをもつて第三者に従たる抵当権の移転を主張し得ないことになるものと解すべきところ、(この点民法第三百七十五条に準拠して抵当権を被担保債権から分離して独立に処分した場合とは異る。)本件豊崎の被告に対する債権譲渡については、原告の前記差押通知後である昭和三十四年七月二十四日に至り漸く債務者に対し確定日附ある証書(内容証明郵便)による通知がなされたに止ることは被告が本訴に於て自認するところである。

そうすると被告は前記債権の譲受けをもつて、該債権の差押権者である原告に対抗できないのであるから、その結果としてこれに従たる抵当権の移転をも主張し得ないものというべく、従つて該抵当権移転の附記登記の抹消登記手続を求める原告の本訴請求は理由がある。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 隅田誠二)

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